チリワイン「アルパカ」はなぜ売れる?

日本で最も売れている輸入ワインは「アルパカ」と言います。

おフランス人が聞いたら怪訝な顔をしそうだ。「それはワインの名前じゃない」と。ラベルにアルパカと名前書きされているだけでなく、ボトルにはアルパカの姿がシールで貼られている。もちろんチリワインだ。東洋人だから仕方ないよね、と思われるかもしれない。

日本酒のブランド名が「フジヤマ」で、ラベルに富士の絵がデザインされていたら、日本人なら外人客向けの土産品だと思うだろう。その国で最も売れている輸入酒がそれだと聞かされたら、「いやいやそれは・・・」となるだろう。

ワイン市場の文化史的な流れからみたとき、「アルパカ」というブランディングにはユーモアというか、滑稽な感じさえする。エスプリが効いてるとは決して思わない。しかし12年に発売したこの冗談めいたブランドは、初年度3.6万箱、13年は11万箱、14年は36万箱、15年は101万箱、16年は142万箱と、輸入ワインの販売数量としてはケタ違いのモンスターブランドに成長してしまった。

14年の時点で、「アルパカ」のブランディングはすでに他社から模倣されるようになっていた。チリ産で、500円前後で、フレーズの短い名称と、動物のアイコン。3年経った今や、それがデイリーワインのスタンダードだ。

 

覚えられる・見つけられる
「アルパカ」によるワインのイノベーション

かつてワインの名称といえば、日本人からすれば意味不明な横文字の羅列。ラベルのデザインも似たり寄ったり。価格帯によってそれらしい風格があるのは分かるものの、同じ価格帯の中ではどのブランドも同じように見えていた。

何より問題なのは、ブランドが記憶に残らないことだった。飲んだ時においしいと思っても、名前は忘れたし、どんなラベルだったかもあやふやでは、リピート購入ができない。

「アルパカ」は記憶にとどまる。もし名前を忘れたとしても、アルパカのアイコンが印象に残っているので店頭で探せる。見たことがなくても、その特徴は聞いただけで識別できる。「アルパカ」はこんなだと説明したら、妻も間違えずに買ってこれた。

ブランドを覚えられる。店頭で探せる。ワイン市場で「アルパカ」が成し遂げたイノベーションだ。

ワインは、分かる人だけが分かるカテゴリーだった。「アルパカ」のメガヒットは、それが購入しやすい価格で高パフォーマンスであったことはもちろんだが、コスパだけでは他のチリワインとの差別化は難しい。ワインを知らなくても個体を識別できることが革命的に重要だった。

 

「アルパカ」で押したアサヒの度胸が革新的

それにしてもネーミングの「らしさ」とは微妙なものだ。先に日本酒の例を出し、日本酒のブランド名で「フジヤマ」では変だと書いたが、「八海山」ならよくて「フジヤマ」がおかしい明確な根拠はない。「富士山」と書かれても違和感に大差はない。とにかく「富士山」とは名付けない。そんな日本酒もあるかもしれないが、うまい名前とは思われないだろう。

日本酒で「富士山」以上に、ワインで「アルパカ」はひどい。「チリといえば・・・・」、で出てくる小学生の連想レベルだ。ワインと動物のアルパカには何のつながりもない。「富士山」の方が、まだ風土を表現している点でまともだ。

ワイン市場に売上No.1という概念を持ち込んだこと自体がアサヒの革新だ。販売数量をアピールしようともしないのがワイン市場だった。

アサヒはワイン市場にいくつもあった間隙を突いて、「アルパカ」を押し上げた。

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