歳々年々、人もスーパードライも同じからず。で、発売30周年

 

「スーパードライ」の発売から今年で30年。登場当時を現役で知る人たち、つまり87年時点で20歳を超えていた世代から見れば、スーパードライには革新的なブランドイメージが今も鮮明かもしれない。

当時は業界3位だったアサヒを首位に飛躍させた立役者、ビール市場そのものの流れを変えたイノベーション商品。食品業界ではよく知られていることだが、ライターとして業界に関わるまで、スーパードライに革新的な印象はなかった。なにせ87年のとき私は10歳、当時とそれ以前のビール市場がどんなだったか、肌感覚としては分からない。

 

団塊世代にとっての変革者、ジュニアには体制側


 

スーパードライには父親が飲んでいたビールという印象しかない。そして自分がビールを飲むようになった頃には、スーパードライが圧倒的なシェアを誇っていた。市場のキングに、挑戦や革新というイメージは抱きにくい。

アサヒビールの取り組みを知るようになってイメージをだいぶ修正してきたものの、それでも「挑戦を続けるキング」かな。ブランド戦略には常に「挑戦」がうたわれるものの、市場における立ち位置は「挑戦者」ではない。スーパードライこそが王道であり、市場の体制を形成する存在という印象は変わらない。

体制派であることは、印象ではなく事実だ。2位ブランドの販売数量を2倍以上も引き離し(2位「のどごし〈生〉」は価格が半分の第3のビールであるにも関わらず!)、発泡酒などを除いた狭義のビールではシェア5割。ビールで「辛口」をうたったのはアサヒビールの発明だし、飲んだ際の「キレ」や「のど越し」といった感じも、スーパードライの成功によって国内では「ビールらしさ」の中心に置かれるようになった。まさに体制派なのだ。

それでもスーパードライが挑戦者であるとしたら、それは競合他社に対してではなく、市場の変化に対して、ということになる。

 

ビールの王道をいく栄光と苦しみ

  

スーパードライの販売実績を振り返ると、初年の1987年は1350万ケース。2年後の89年には1億ケースに到達し、ピーク時の2000年には1.9億ケースを売り上げた。その後は漸減トレンドが続き、直近の16年は1億ケースになっている。

ピーク時の数量から半減近くまで縮小しているのは、発泡酒や第3のビールといった新カテゴリーが創出され、ビール全体の市場構造が変わったことも影響している。とはいえ、3つのジャンルをすべて合わせたビール類のトータルも縮小トレンドであることに変わりはなく、「ビール離れ」は進行中だ。

このビール離れは、たんにトレンドの浮き沈みではなく、酒類の多様化の帰結である。食事と一緒に飲む酒類は、ビール以外にもバリエーションが増えた。

缶チューハイやワインなど、90年代に比べ消費量そのものが伸びている酒類があるだけでなく、ウイスキーをハイボールにして飲むなど、かつてはなかったものの、今やビールの飲用シーンに割って入る飲み方も浸透している。

ビールそのものの価値も多様化している。スーパードライを1つの基準に、それとは異なる味わいの個性や飲用シーンをうたって「ザ・プレミアム・モルツ」のブランディングが成功し、クラフトビールや輸入ビールといったニッチ分野も活性化した。キリンもビール全体でクラフト志向を強めている。

「ビールには多様な楽しみ方がある」と各社が言う場合、それはスーパードライ的な楽しみ方以外の世界があると言っているのに等しい。それだけスーパードライは国内ビールのスタンダーであり、築いてきた基盤は大きい。

「非スーパードライ」を起点に挑戦できる他のブランドとは異なり、スーパードライの挑戦は既存の巨大な顧客基盤を抱えたうえで取り組まねばならない。競合ブランドがビール市場の変化を追い求めるなか、スーパードライでは「進化」という言葉を使う。

 

ブランドはファンと共に歳をとる


 

シルバーパッケージの1本槍できたスーパードライも、2012年以降は「ドライブラック」、「ドライプレミアム」といった派生ブランドを立ち上げ、期間限定品もいろいろ出すようになった。

花見の季節にはスカイツリーの展望台を貸し切ってイベントを開催したり、夏は各地の花火大会で露出を高めるなど、催事に合わせた「コト提案」も派手にやっている。来年の冬季五輪、20年の東京五輪に関連したイベントの準備にも余念がない。

本社ビルはオリンピックに向けたイルミネーションに

 

派生品の展開や大掛かりなイベントとの連動は、主に新規ユーザーの獲得をねらったものだ。

私が父親世代の飲み物だと思ったように、シルバーパッケージでは革新的なイメージが伝わりづらい世代がある。派生品やイベントによってブランドの違った側面を見せることにより、ブランドに関心を持つきっかけを作ろうとしている。

実際、スーパードライの最大ボリューム層は50〜60代という。30年前にスーパードライの躍進を目の当たりにした世代だ。この巨大ブランドをもってしても、若年層の取り込みは年数が経つにつれ課題になっている。

 

30〜40代をターゲットにしたテレビCM

 

期間限定品のテレビCMにも若年層を獲得しようとする意図はうかがえる。

17年春の「エクストラハード」では、CMキャラクターの福山雅治に、同品限定のキャラクターとして安室奈美恵を起用した。福山さんは48歳? 若く見えるね。安室は同い年なので40歳になるはず。感心するね。実年齢はもちろん、より若く見えるタレントを起用して、安室さん周辺のアラフォーの注目を得ようとしているのだろう。

夏に発売した限定品「瞬冷辛口」では、福山氏とジョニー・デップを起用した。デップさんは54歳だそうで。だいたい海賊のイメージだが、CMでもそんな印象の格好なのは公開中の映画に合わせたのだろうか。それとも、いつでもバンダナをしている人なのだろうか? その映画は第1作の公開が03年。けっこう昔だ。学生時分にあれを観て、ジョニー・デップに魅せられた人も30代。スーパードライが開拓したいゾーンに入ってくる。

50〜60代の心はがっちり掴んでいる。ただし、さすがに飲む量は減ってきている。30〜40代をもっと取り込むための広告コミュニケーションや派生品の展開でそこを補う。スーパードライが「進化」を使うようになったこの4、5年、ブランド戦略はそのような方向性で進んでおり、そこは進化というだけに、年々大掛かりになっている印象がある。


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