マネーは人間関係のツールでもある
買物のほとんどをカードかモバイル決済で片付けたとしても、現金が必要になるシーンを根絶しない限り、どうしても財布を持ち歩かねばならない。
キャッシュレス社会を真に実現しようと思うと、マネーが単なる決済ツールではないことが改めて思い起こされる。たとえば小遣いであり、仕送りであり、割り勘であり、集金であり。マネーは家族や友人・同僚などとの関係を作る社会的なコミュニケーションのツールでもあることがはっきりしてくる。
こうした個人間のマネーのやり取りをカバーするフィンテックもすでに複数あり、銀行口座への振込だと発生してしまう手数料もかかることなく、スマホで便利に行えるようになっている。
送金機能を備えたアプリの代表的なものとして、LINE Pay、Yahoo!マネー、Kyash、paymoがある。
アプリ内の口座に通貨同等のマネー的な価値をチャージして送金する点は共通だが、使い勝手はそれぞれ異なる。これら4つのサービスについてメリットと課題を整理する。
①LINE Pay 包括機能のウォレット

決済ツールとして幅広い利用先・利用形態を持つLINE Pay
口座へのチャージ方法
- メッセンジャーアプリ「LINE」内の一機能として提供するペイメントサービス
- アプリ内の口座にチャージする方法は、銀行口座とひもづけたりコンビニで入金したりと、さまざまな方法が用意されている。
送金・決済方法
- LINE Payは、決済・送金のいずれにも対応する。
- 決済ツールとしてはJCB加盟店で使用できる。別途発行するLINE Payカードとリンクさせて使うのが一般的だが、スマホにQRコードを提示して使用する方法もある。
- 送金には本人確認の手続きが必要なうえ、相手がLINE Payの設定をしていないと利用できない。
- LINE Payの口座から銀行口座に出金することもできる。手数料216円。
特筆事項
- 1回の取り扱い上限が100万円と巨額。銀行口座に出金するには216円の手数料を取られるし、支払い先はJCBカードが使える店(オンライン含む)に限定されるものの、仕送り用途にも十分に耐える。
- クレジットカード、デビットカードを登録してLINE Pay経由で決済もできる。
難点:多機能すぎて分かりづらい
- 銀行口座ともクレジットともひもづけ可能で、決済も送金もできる。決済方法はカードにもモバイル決済にも対応する。これらすべてがLINE内で完結するのはすごいことだけど、多機能すぎて理解を難しくさせる。
- LINE Payアカウントには、LINE CashとLINE Moneyの区別がある。Pay、Cash、Money! 似たような言葉が多すぎる。CashとMoneyの区別など、直感的に不可能。
②Yahoo!マネー Yahoo!内マネーを個人間でもやり取り

スマホアプリで送金するYahoo!マネー
口座へのチャージ方法
- Yahoo!ウォレットの電子マネー機能。銀行口座とひもづけて使用。
- コンビニでのチャージや、ヤフオクの売上金もチャージに回せる。
送金・決済方法
- 決済ツールとしてはヤフオク、Yahoo!ショッピング、LOHACOでの利用のみ。
- 送金は専用アプリ「さっと割り勘すぐ送金from Yahoo!ウォレット」で。iOS、アンドロイドに対応。アプリがなくても、LINEやFacebookの登録ユーザーは請求・支払いに対応。銀行口座への出金には手数料2.16%が必要
難点:電子マネーの用途が限定的
- 支払いツールとして使える先が狭すぎる。
- Yahoo!のロイヤルカスタマーでもない限り、割り勘代をYahoo!マネーとして徴収する理由に乏しい。
- また、銀行口座に移すには手数料を取られてしまう。
③Kyash クレカ支払いによる送金

Kyashのサービス概要(Kyashサポートページより)
口座へのチャージ方法
- VISA、Mastercardのクレジット・デビットカード、Vプリカとひもづけ。
- チャージ金額が不足している場合もクレジットから自動充当。
送金・決済方法
- 送金はアプリをダウンロードしたユーザー間でないと、実際に金額のやり取りはできない。
- 決済ツールとしては、VISA加盟店で利用可能。ただし現在はオンライン限定。リアル店舗は今後。
- モバイルSuicaにチャージする手続きを踏めば、Suicaとしてコンビニなどで利用可能。
- 銀行口座とひもづけしないため、キャッシュへの出金は不可能。
特筆事項
- 銀行口座とのひもづけではなく、VISAのクレジット機能を経由するため手続きが簡単(比較的)。
- 決済ツールとしての用途が広い。
難点:送金メインでダウンロードするかどうか
- Kyashのアプリユーザーでないと金額のやり取りはできない。
- 仲間うちのツールとしては使いやすいが、誰にでもダウンロードしてもらえるとは限らない。
④paymo 送金ではなく、割り勘の債務を支払うアプリ

paymoの利用イメージ(同社HPより)
口座へのチャージ方法
- VISA、Mastercardのクレジットカードとひもづけ
送金・決済方法
- 送金は、支払いレシートを撮影した幹事に、割り勘の債務者が支払うという形式。
- 決済ツールとして、17年7月下旬からアプリ内の残高から「ペイモQR支払い」加盟店での利用が可能に。
- それまで残高は、別の支払いに利用するか、手数料200円を払って銀行口座に出金するかの2択だった。
難点:用途が限定的
- 送金ツールとしては割り勘にしか使えない。それもレシート撮影が必須。
- 決済ツールとしては独自決済サービスでの支払いにしか使えない。年内1万店を予定。
キャッシュレス社会に必須でも、現金より簡単ではない現状
現金を扱いたくないという個人の意思でアプリを用意しても、関係者すべてがアプリをダウンロードし、銀行口座かクレジットカード情報を登録するというハードルは高い。世代が近いもの同士で20代とかなら完結するかもしれないが、会社などで幅広い世代が集まると、困難さが増すだろう。事前にATMに寄って現金を用意した方が話が早そうだ。
けっきょくアプリの幅広い浸透が不可欠だが、誰からも認められるほどの価値を備えたアプリかというと、微妙な現状だ。あえて送金のために新しいアプリを導入しなくても、そこそこ便利な代替手段は他にいくらでもある。
送金を通じてアプリ内の口座に貯まった価値も、決済ツールとしては用途に制約がある。それでは銀行内の預金をあえて転換する動機になりづらく、銀行口座に戻そうとすれば手数料を取られてしまう。
送金を起点とするのは、利用の頻度的に苦しい?
個人間の送金というシーンは重要ではあるものの、一般的な決済シーンに比べれば頻度は少ない。送金機能をメインとするより、便利なペイメントサービスの1機能という位置づけの方が使いやすいようだ。
LINE Payは最も理想に近いが、ペイメントサービスとしての存在感はまだ弱い。
現時点では、SuicaやWAON、nanacoといった知名度のある電子マネーが送金機能を備えたら、ユーザーにとってより使いやすいツールになるだろう。あるいはクレジット機能の一形態として送金機能を提供した方が分かりやすいように思える。
もちろん、ここに取り上げた4つのサービスが発展して普及すれば、問題の多くはクリアされる。