本は増える。必ず増える。増え方に個人差があるとしても、その人なりに本は増えていく。
増えすぎて本棚があふれたら、本棚を増やすか、本を捨てるかの選択を迫られる。本棚を増やせば部屋が狭くなる。それは避けたいが、本を捨てたり中古で売るのも、もったいない気持ちにさいなまれる。とはいえ物理的な制約が決断を迫る。
このジレンマを解決するただ1つの手段は、蔵書を紙から解放することだ。
すなわち裁断して、データ化すれば、蔵書のすべてがパソコンの中に収まる。
断裁機&ドキュメントスキャナー
本を後かたもなく片づける道具
かつて本棚を買うしかないところまで追い込まれたとき、断裁機&ドキュメントスキャナーの存在を知った。
全ての本を断裁し、PDF化するのに3年かかったけど、本棚のような大型家具を買い足さずに済んでよかった。本棚がなくなって住環境が広くなるだけでなく、スペースの気兼ねがないから本を買う量がとても増えた。本を買うかどうかのネックは購入金額ではなく、ストックする場所が問題だった。
もっとも、断裁してスキャンして、PDFのデータを圧縮して、等々の作業は手間なので、今は電子書籍を買っている。出版業界の変化は遅く、まだ過渡期なので紙の本しかないものあるから、今も断裁機を処分することはできない。
常にはなく、必要なときだけ現れる
完ぺきな本の片づけ&収納術
紙の制約から解き放たれた本のコンテンツは、肉体から解放された魂のようなものだ。iPadなどの端末に憑依して、読むときだけ書籍として実体化し、読むのをやめたらすっと消える。ストックはハードディスクの中に膨大にある。確かにあるけど、普段は目に見えない。必要なときだけフォルダを開いたり検索すると現れる。
この状態は、片づけとしてパーフェクトだ。どれだけ整頓された本棚でも、必要でないときまで存在し続けること自体が邪魔だ。不要なときに物理的なスペースを取り続けた挙げ句、必要になったら今度は物理的に探す手間が生じる。読むときはまず、本に積もった埃を払うところから始めないといけない。私はハウスダストアレルギーだ。
なかには蔵書の置き場に困らないという豪邸もあるだろうけど、本そのものは置いとくだけで劣化する。紙の保管は難しい。
デジタル書籍は劣化しない
美しく線を引き、跡形もなく消すこともできる
大事な本ほど、長く所有している間に色あせて汚れて、手に取るのも嫌な古紙になり下がる。データ化しておけば、断裁した当時のままのコンディションで閲覧できる。安物の紙の束を曲げながら読むよりも、iPadのフラットでなめらかなガラス越しに読んだ方が、読書体験としても上質だと思う。
読書術においても、デジタル化した本には紙とは別次元の発展性がある。そもそも紙の本に線とか引くのは、後戻りできないから気がひける。デジタルなら取り消しができるし、複製も作っておけるし、思うままにやれる。
それでも紙をめくりたい、住環境を犠牲にしても古紙を貯め込みたいという趣向は、じきに骨董趣味の世界になる。壺や絵画や、レコード盤などをコレクトするようなもので、そういう楽しみ方はいつまでも残るだろう。周囲からは骨董趣味の人と見なされ、死んだらこの膨大な本の山、どうするんだいと心配されたりするだろう。死ねば遺族が棄てるだけだ。どれだけ大事に保管しても所詮は古本。まだ壺の方が売る夢がある。
金と手間はかかるが、効果の高いハマる整理術
蔵書をデジタル化するメリットは多いが、手間はかかるし金もかかる。本棚を買い足さずに済むとはいえ、節約術とは違う。住環境を改善し、蔵書を気兼ねなくストックできる手段だから、やはり整理術の一つだ。
必要なツールが3つある。
- 断裁機
- ドキュメントスキャナー
- PDF編集ソフト
私が買い揃えたのは2010年のことだが、参考までに書くと断裁機は3万円、スキャナーは3万5000円もした。
ドキュメントスキャナーはとっくにモデルチェンジしているが、相場はそれほど変わらない。断裁機は購入したものがまだ売られている。
フォルダには1775冊分のPDFファイルがあるので、断裁した枚数でいったら20万枚は超えてるはずだが、断裁機の刃はまだ使える。スキャナも健在だが、紙送りのローラーは1回交換した。
PDF編集ソフトは、仕事で使う事情もあって、AdobeのCreative Cloudを年間5万円近くかけて使っている。
道具の費用もさることながら、断裁してスキャナで読み込み、PDF編集ソフトで最適化するという一連の作業は、1冊あたり20分くらいかかる。
本棚を増やしたくない、本を捨てたくないという強い思いがないと、なかなかやり続けられるものではない。
ただ、やり始めると、本を捨てられることが爽快に思えてくる。まだ読める本を切り裂く後ろめたさはすぐに消えた。
むしろ紙ゴミを捨てて、本棚が空き、データが増えていくのは快楽になる。
整理好きにはたまらない作業になってくる。