現金払いのニーズは和式トイレのようなもの? やがて廃れるもの

 

キャッシュレス化の対応に消極的な小売チェーンがあって、その理由が「お客さまには現金で払いたいというニーズがあるから」というものだとしたら、このような例えで尋ねたい。

「お店にトイレを2つ設置するとして、ニーズもあるからという理由で1つを和式トイレにしますか? いまどき?」

オープンから20年以上も経った店の場合、いまだに和式トイレが残っていたりする。改装して1台は洋式トイレにしているにも関わらず、わざわざ和式トイレを残していたりする。

以前、あるチェーンの経営者が「お年寄りは和式トイレを好むと勝手に思っていたけど、やっぱり洋式なんですね」と話していた。信じられないことにこれは2、3年前の話だ。その人はどうして、そんな風に思っていたのだろう? 洋式と和式の両方が空いていて、あえて和式を選ぶ人がどれほどいるというのだろう?

 

顧客のニーズか、店の都合か

 

これが30年前なら、和式トイレを選ぶ人が多かったのだろうか? 店のトイレは和式を採用している場合が多かっただけで、多くの人は洋式の方を使いたいと考えていたに違いない。30年前でも私の家は洋式だった。大概の家がそうだろう。小学校は和式だった。だから使いたくなかった。

かつて家以外の施設で和式が多かったのは、導入コストや清掃のしやすさなど店側の都合が理由ではなかったか。

洋式トイレを敬遠したいという唯一の理由として、赤の他人と「おしりあい」になるのがちょっと・・・、という気持ちは理解できる。だからといって、その人は和式トイレを使いたいわけではない。洋式トイレをもっと快適に使いたいと考えているだけだ。

そんな利用者のために便座をアルコール消毒する設備を用意することは、施設運営者にとって当然の良識だ。まだ常識とまではなっていないが。

トイレの話が続いて申しわけありません。

ここで話を現金とキャッシュレス決済に戻そう。未来の視点から現代を見てみよう。現代から和式トイレがあたりまえだった当時を振り返るように。

「現金で払いたい」というニーズ。それに対応していることは、将来に和式トイレの設備を残そうとする努力に他ならない。

 

顧客の選択は理のある方へ向かう

 

今は現金払いの方がマジョリティかもしれない。しかし、キャッシュレス決済が取って代わる未来は避けられない。キャッシュレス化は顧客にとっては便利なだけでなく、ポイントプログラムが連動してお得でもある。店にとっては現金を扱わないことがオペレーションの簡略化につながり、蓄積されていく購買データは顧客との関係を深めることに貢献する。買物の合理化を追求していけば、キャッシュレスに分がある。

キャッシュレス決済の人は今はマイノリティだが、レジ待ちの際、紙幣を出して小銭を出し、お釣りを受け取っているマジョリティに対して思わずにはいられないだろう。

「早く済ませてくれないかな」

買物体験において、キャッシュレス決済の方が合理的である以上、支払いシーンはキャッシュレス化にシフトする。トイレ体験で分のある洋式が、和式に取って代わったように。

小売側には和式トイレで済ませたい理由があったように、現金決済を残したい気持ちもあるだろう。キャッシュレス化のネックとして、決済手数料の増加が挙げられる。

しかし、手数料の増加はレジ業務そのもののオペレーションを改善するとか、顧客との関係を深めて売上を伸ばすとか、別のコスト削減や収益力の向上で吸収しようとすべきだ。

キャッシュレス化をきっかけの1つに、労働集約型の現状からの脱却を目指そうとするのが未来志向だろう。顧客のニーズ(と見なすもの)を盾に、手間のかかる現金処理を温存しようとするのは、やがて到来することが確実なパラダイムシフトから目をそむけることでしかない。

 

現金で払いたいニーズというよりも、
キャッシュレス化できない悩みでは?

 

現金を使いたいと考えている顧客の大半は、「現金以外の決済手段が使えない」という問題を抱えているだけかもしれない。それは現金で払いたいというニーズではなく、キャッスレス化できないという悩みだ。

洋式トイレの「おしりあい不安」を抱えている状態に似ている。洋式トイレとは異なり、キャッシュレス決済ツールは使い方からして分からないという人も多く、課題や使用に伴う不安は多い。

こうした課題に対しては、キャッシュレスに関する分からないこと、不安なことを解消していくことで利用を促す必要がある。必要があるというのは、繰り返しになるがキャッシュレス化は未来の常識だからだ。

キャッシュレス化への対応を遅らせることは、店にとって単純に競争不利の要件になっていく。なぜならキャッシュレス化によって顧客の買物体験はより合理的なものになり、店側のオペレーション負荷は軽減されるからだ。収益力の差に直結する。

いつまでも現金を数えることを従業員にも顧客にも強いるべきではない。また、現金を使う顧客に対し、それがニーズであると見なし、顧客の抱える問題から目をそらすべきでもない。

顧客は本当に現金で払うことを望んでいるか、店側で決定権をもつ人自身が振り返るべきだ。自分の支払いシーンを考えて、現金で支払うことを心の底から望んでいるだろうか? できればクレジットカードその他のキャッシュレス決済で済ませたいと思っていないだろうか?

思わないというなら、仕方がない。周りの人にアンケート調査をするしかない。自分が少数派の変わり者だと気づくだろう。


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