買物難民に商品を届ける方法として、移動販売の展開が加速している。
買物難民がいる地域とは、すなわちリアル店舗を構えることが困難な限界マーケットのことである。店のあるところまで車を転がして行けるならいいが、そうもいかない人もいる。つまり買物難民がいるのは、だいたい高齢者が多い地域ということになる。
割に合わないから店は出せないとしても、生活者も困るだろうということで、特定日時の特定場所に商品を積んだトラックで乗り付けて販売する。それが移動販売だ。社会的な意義はあるものの、いかにも儲からなさそうだ。
とくし丸、1年で移動販売車が2倍に
この移動販売での商売を採算ベースに乗せる仕組みを構築し、ここにきて展開スピードを加速しているのが移動スーパー「とくし丸」だ。
2012年に設立したとくし丸は、移動販売のシステムやノウハウを提供する。商品も移動販売のドライバーもパートナーシップで用立てる。

とくし丸の事業モデル
商品は地域スーパーの店舗が供給し、移動販売は個人事業主のオーナー経営者が担当する(スーパー自体が販売を担当するケースもある)。とくし丸本部は、地域スーパーと契約してロイヤリティ収入を得る。日々の移動販売に関するコストと利益は、店と個人事業主とで分かち合う。
販売オーナーは、スーパーにとって販売代行業に相当する。スーパーは移動車両や販売などのコスト負担がなく、販売オーナーは仕入コストはがいらない。粗利高をスーパーと販売オーナーで分け合うほか、利用客は1品につき10円を上乗せして支払い、店と販売オーナーが5円ずつ受け取る。
とくし丸は17年3月時点で全国の地域スーパー65社と提携し、36都府県で205台の移動スーパーが稼働している。100台突破まで4年を費やしたが、それから1年で200店に倍増した。直近では230台ほどが稼働している。
提携スーパーには年商1000〜2000億円規模と地域の有力チェーンも含まれる。7月には都内を中心に137店を展開する「いなげや」や、埼玉を基盤に81店を運営する「コモディイイダ」が加わった。両チェーンの店舗から出発する移動販売者は、今秋の稼働を予定する。
スーパーとの提携は個店単位の契約を基本とする。18年度末には500台の稼働を目指す。
とくし丸のホームページには、販売オーナーの収入モデルも記載されている。日販や、それに基づく実質的な手取り額が示されているほか、開業費用も内訳の詳細と共に合計330〜350万と明示している。開業までの準備期間は60〜70日が目安という。

移動販売オーナーに必要な経費の事例(とくし丸HPより)
限界マーケットでも競争・・・。ないよりはいいけど
とくし丸の仕組みは、商品供給と移動販売の分業によって収益に結びつける。利用客には喜ばれるもののハードワークであることは確かで、携わっている方の実体験はさまざまなメディアで語られている。
この移動販売にはコンビニ各社も力を入れ始めている。ローソンは17年度中に移動販売者を100台体制に、セブンイレブンも18年度中に100台体制を目指すとしている。ファミリーマートはJA全農と組むなどして、移動販売の展開を増やしている。コンビニに限らず、とくし丸とは違う手段で移動販売に取り組むスーパーもある。
買物難民は全国に700万人いるとも推計されているが、移動販売の損益ラインに乗るルートは限られる。採算が見込めるエリアから車を走らせて行けば、当然ながら移動販売で競合する状況も増えてくる。
移動販売に取り組むスーパーに、これを収益源にしようという意識は低い。赤字にさえならなければ、地域貢献のためにという思いでやっている。そこへ競争が持ち込まれてはかなわない、となりそうだ。しかし競争環境のない小売というのも、消費者のためになるかどうかは微妙なところだ。消費者は店を選べることを歓迎するだろう。
とはいえスーパーは、赤字になるなら手を引こうと考えるかもしれない。すると利用客は買物難民に逆戻りしてしまう。
損益ギリギリのラインで勝負するマーケットの場合、必ずしも大手が有利とは限らない。個人事業主が創意工夫で労務を厭わずに努力することで達成する採算ラインに、社員を動かす大手の方が合わせられないこともある。規模のあるチェーンは赤字なら撤退という選択肢もあるが、販売オーナーはそこに生計をかけている。局地戦でこの違いは大きい。
いずれにせよ限界マーケットでの勝負だけに、シェアを争うとなったら事業者にとっては厳しい戦いになるしかない。
買物難民にならない自衛も必要だが、
周辺環境の変化を見通すのは難しい
生活者は企業や個人事業主の篤志に委ねる前に、自衛の策を講じる必要もありそうだ。救済が難しいからこその難民であり、買物難民にならない暮らし方を考えねばならない。
できるだけスーパーの近くに暮らすか、ネットスーパーを使えるようにするか。こんなことも老後の備えとして必要かもしれない。
かくいう自宅も、最寄りのスーパーまで徒歩7分。80歳を超えたら厳しそうだ。もっとも今から40年後にその店がある保証はない。人口減少もだいぶ進む将来に、周辺がどんなになるかも分からない。次に近いスーパーは1km以上で駅の向こう。いよいよ難民になりそうだ。
周辺の環境がどのように変化するか、見通すことは難しい。つまり気づいたら難民になってしまうということか。