単なるデータ化ではない? 「Eight」は名刺を再発明

 

名刺を交換するのは人のようだが、実際には個人がやりとりしているのではない。名刺は、所属する法人を代表して(もしくは法人格の一部としての個人が)、交換しているのだ。

なぜなら、名刺交換した時点から所属部署が変わったら、名刺に書かれた肩書きは無意味になり、場合によっては電話番号も使えなくなる。

名刺交換した人が退職したら、メルアドも無意味になる。そして連絡手段は途絶える。

名刺を紙でストックしようと、スキャナで取り込んでデータ化しようと、名刺以外の情報でつながっていなければ、所属が変わる時点でその人との関係は途絶える。

こうしてみると、名刺に記された情報に個人データは1つもない。名前は個人情報か? いやいや。何の情報ともひもづけられていない名前など、ID番号の数列よりも無意味な文字列でしかない。漢字の意味や音の響きはあるとしても、それは個人情報ではない。

つまり名刺は、法人格のためのカードだ。その交換には個人が介在しているにも関わらず、カード情報には厳密な意味での個人は存在していない。

しかし、そんな名刺の性質も、「これまでは」の注釈をつける必要がある。名刺はすでに「再発明」されていた。アップルが「電話を再発明した」としてiPhoneをプレゼンしたのと同じくらいの意味で作り変えられている。Sansan社が提供する名刺管理アプリ「Eight(エイト)」は、名刺を法人のカードから個人のカードに変質させる。

 

個人として「つながる」。エイトの名刺ネットワーク


 

エイトで取り込んだ名刺画像は、手入力によって正確なデータとしてストックされる。このデータ化の仕組みにSansanの本質的な価値があるのだが、それについては別の機会に触れたい。

とにかくエイトで取り込んだ名刺は、正しくデータ化される。スマホからでもPCのブラウザからでも名刺を検索できる。電話をかけたり、メールを作成したりできる。大変便利だ。

 

Eight ホームページより

 

もちろん、それだけなら再発明とは言えない。精度は重要だが、これまでも今も類似のサービス機能は存在する。

エイトには自分の名刺データも登録する。すると、名刺交換した同士が互いに名刺をアップすると、知り合いとして「つながる」状態になる。この「つながっている人」同士は、アプリやブラウザ上で個別にメッセージをやりとりしたり、一斉に近況を報告したり、SNSのようにコミュニケーションできる。

画期的なことに、このつながっている状態は、名刺交換した時点の会社を退職しても切れない。転職した先の名刺を再びアップすれば、「つながっている人」に通知が届き、前職の関係性がそのまま残る。

 

エイトに取り込んだ瞬間、会社情報は個人情報に転換する


 

これを便利と言えばそれまでだが、なぜ便利かを考えると、名刺の本質を大転換していることに気づく。

名前以外は会社情報しか載っていない名刺を、データとしてエイトに取り込んだ瞬間、それは個人のIDで管理された個人情報に置き換わってしまうのだ。転職した人のことを考えると分かりやすいかもしれない。旧所属の会社情報は、その人の履歴になっている。「会社組織に所属するAさん」の情報だったものが、「Aさんの履歴」、つまり個人情報に置き換わっている。

このような名刺の転換は、エイトのネットワークに乗せて初めて可能になる。単純に名刺をデータベース化しただけでは、転職した人との関係は途絶えてしまう。従来の名刺は、法人同士をつなぐもので、個人情報は含まれていないからだ。

Sansanは、企業向けに社名と同じSansanという名刺管理サービスを提供している。松重豊さんのテレビCM(「それ、はやく言ってよぉ」のあれ)で描いているように、Sansanは社内で名刺データベースを構築するためのサービスだ。ここでの名刺データは、やはり法人のカードという前提のままだ。

Sansanは2007年にスタートしたサービスで、エイトは2010年頃から準備し、12年にスタートした。17年8月時点では、利用ユーザー数200万人を目前にしているという。当面の目標は500万人、やがては1000万人規模にという見通しを立てている。

法人ではなく個人を起点にネットワークを構築するエイトの発想は、終身雇用が崩れた時代にふさわしい名刺機能になっている。

しかし、他にもネットワーク化された名刺管理サービスがあるではないか、と言われるかもしれない。あるかもしれない。私がエイトを選んだ理由は、名刺の本質を転換したことだけではない。名刺起点のネットワークを利用する前提として、入力情報が正確であることは外せない。先にも触れたように、名刺を取り込むOCRは完璧には程遠い。手入力で正確さを保証するエイト(Sansan社)のサービス品質が必要なのだ。入力の正確さと効率を実現するSansanの仕組みについては、繰り返しになるが別の機会に。


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