クレジット決済と東京オリンピック

 

クレジットカードは1960年代に誕生


 

現代に続くクレジット決済が始まったのは1950年代の米国という。

といっても、クレジット決済の本質を「ツケ払い」と考えるなら、つまり購入ないし消費をした後、支払いは後回しにするという方法そのものは、世界中で古くからある珍しくもない決済手段だ。日本だって、少なくとも江戸時代には町人文化の隅々にツケ払いは浸透していた。その清算をするのが大晦日であり、この日のドタバタは落語の題材などで見かける。

ただ、米国のダイナースクラブがクレジット決済の祖とされるのは、売る側と買う側の二者間の信用ではなく、クレジット会社が間に入る三者間の取引を浸透させる端緒となったからだ。それ以前にもクレジット機能のカードはあったらしい(ウィキペディア「クレジットカード」参照)が、詳細はよく分からない。

日本にこの決済システムが導入されたのは1960年代で、富士銀行と日本交通公社が1960年に設立した最初のクレジット専業会社は、米国のフランチャイズとして日本ダイナースクラブと称した。現在、ダイナースクラブカードは三井住友トラストクラブが運営している。

米国も含め、当時のクレジットカードは紙の会員証のようなものだった。1963年に日本ダイナースクラブが発行したプラスチック製のものが、世界最初のクレジットカードとされている。といっても、磁気ストライプを搭載するといった技術革新があったわけではなく、素材を丈夫なプラスチックに変えただけだ。紙以外のクレジット的なカードに前例がなかったわけでもなく、20世紀前半の米国には金属製やセルロイド製カードもあったという。

日本ではJCB(当時の社名は日本クレジットビューロー)も1961年に設立している。60年代に入ってクレジットサービスが相次いで立ち上がった背景には、1964年の東京オリンピックを控え、訪日旅行客の観光インフラを整える意図もあったというが、その理由はどうだろう? 日本発のカードブランドが誕生したところで、急にクレジット決済のインフラが整うわけではない。

旅行客の利便性にどの程度の効果をもたらしたかは不明だが、オリンピックに向けて支払い手段も最新のシステムを導入しようという気持ちはあったのだろう。2020年に向けた現代日本の感じを見れば、60年代前半の雰囲気も推し測れる。まだ発展途上だった当時の日本なら、いっそう盛り上がっていただろう。

 

オリンピックは海外とのギャップに気づく好機?2020年にはカードのIC化でキャッチアップ


 

オリンピックの開催は、世界のスタンダードと自国の現状のギャップを省みるきっかけになるようで、キャッシュレス化に遅れた現代日本では、次の東京オリンピックに向けてクレジット取引のセキュリティを国際水準に高めることが目標とされている。

データ処理の方法など改善ポイントは幾つも挙げられているが、セキュリティ向上に最も効果的で、取り組みの影響が最も広範囲に及ぶのは、磁気式カードからIC式への全面移行だ。

2020年3月には、クレジットカードのIC化率100%、店頭のPOSなど決済システムのIC対応100%を目指すとしている。カードのIC化は現時点で7割という。POSのIC対応はまだ2割以下だそうで、本当に間に合うのだろうか? 18年6月頃にはPOSのIC対応が義務化される。

POSのIC対応は、非接触IC取引も含めてガイドラインを作成中という。IC取引の標準スタイルは、カードを端末に差し込み、暗証番号を入力するというものだ。百貨店やショッピングセンター内の専門店では見られるやり方だが、レジ待ちを課題とする食品スーパーで4ケタの暗証番号を打ち込んでいる場合ではない。果たして食品スーパーで非接触式のIC取引は普及するのだろうか? やがては普及するとしても、20年までのスケジュールでいけるのだろうか。いくといいけど、投資が必要なだけに・・・。

 

カードIC化で偽造・不正利用を防止
ついでにATMが不要な社会を目指しては?


 

経済産業省や業界団体がIC化にこだわるのは、カードを偽造しづらいからだ。

17年3月に経産省が発表した「クレジットカード取引におけるセキュリティ対策の強化に向けた実行計画2017」では、1年前に国内のコンビニATMで発生した総額18億円の不正キャッシングに言及している。

南アフリカ銀行で発行された磁気ストライプのクレジットカードを偽造し、17都府県の約1700台のコンビニATMから、3時間ほどの間に18億円もの現金が引き出された。出し子の数は100人以上とされる。偽造される磁気式カードのセキュリティ上の脆弱性がクローズアップされた。

海外で発行されたカードから日本円を引き出せるATMが、コンビニで標準化されている金融のインフラはすごい。しかし、いろいろなところに現金が保管されている状況は犯罪者にチャンスを与える。いつでも現金が引き出せるから便利という発想は、じきに時代錯誤になるだろう。現金を使わずに済むことこそが支払う側にとっての便利だ。紙幣に換金できる社会インフラは、すでにレガシーになりつつある。

クレジット決済のセキュリティを高めるのはもちろんのことだが、ATMのいらないキャッシュレス社会を実現した方が世の中は安全になりそうだ。安全を脅かす新たな犯罪手法も出てくるかもしれないが、あちこちに現金を置いておかなければ物理的な強盗はできない。現金を狙った犯罪を抑制できることも、キャッシュレス化がもたらす社会の効率化の一例だ。


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