日本人のウォレット:カード7枚以上を所有するリアルが示すこと

 

キャッシュレス化は緩やかに進行


 

日本人の決済ツールは、緩やかにキャッシュレス化が進んでいる。

クレディセゾンが17年3月期決算説明会資料で示した推計によると、個人消費に占める決済手段のシェアで、現金は15年度に49.5%(前年比2.4P減)となり、初めて半数を割り込んだ。

この統計ではクレジットカードの構成比が16%(1.1P増)、プリペイド・電子マネーが5.6%(0.9P増)となっている。

諸外国と比べ、日本人は現金での決済比率が高いのはその通りだとしても、キャッシュによる決済は縮小、キャッシュレス決済は拡大というトレンドが変わることはなさそうだ。

現金からカードへの流れに加え、16年以降はApple Payに代表されるモバイル決済の利用者も増加している。

決済ツールの選択肢は、現金かカードかモバイルか、さらにはカードやモバイル決済の中でもどのサービスを選ぶかで、多様化を続けている。

日本人の決済ツールがいかに多様か、1人あたりが所有する決済用カードの保有枚数からも見て取れる。

 

キャッシュカードだけで平均3枚

 

国際決済銀行(BIS)の下部組織で世界24ヶ国・地域が加盟するCPMI(決済・市場インフラ委員会)の統計によると、15年における日本人1人あたりのクレジット、デビット、電子マネーを合わせたカード保有数は7.7枚で、シンガポールに次いで2番目に多い。加盟国の平均は2.8枚だった。

 

日本銀行「BIS 決済統計からみた日本のリテール・ 大口資金決済システムの特徴」より

 

日本人が所有する7.7枚の内訳は、クレジットカードが2枚以上、デビットカードが3枚以上、電子マネーが2枚以上という。

日本の場合、デビットカードは銀行のキャッシュカードとイコールだ。たいていのキャッシュカードにはJ-Debitが搭載されているため、所有枚数は相当な数に上る。ただし普及はしているものの、利用先がATMでの現金引き出しに限定されているので、個人消費に占めるデビットカードでの決済比率は、先のクレディセゾンの統計によると0.2%にとどまる。

つまり日本人のデビットカード(キャッシュカード)の所有数の多さは、現金決済の比率の高さを反映したものと言えそうだ。

現金決済のウェイトを比較するため、CPMIの統計では現金流通残高の対名目GDP比を用いる。

日本は1番高くて19.4%という。米国が7.9%、5%を切る国にはオーストラリア、カナダ、ブラジル、英国、南アフリカ、スウェーデンが含まれる。現金依存度の低い国には新興国も先進国もあるなかで、日本の数値の高さには特有の事情があることをうかがわせる。

 

クレジットも電子マネーも使い分ける

 

日本人は現金を引き出す先を平均で3行以上も持つ。これだけで各国平均のカード枚数を上回るうえに、さらにクレジットカードも2枚、電子マネーも2枚所有する。それぞれ各国平均を上回り、いかに多くのカードを使い分けているかをうかがわせる。

ただしクレジットカードの決済額は、名目GDPとの対比では各国の平均を下回る。

一方、電子マネーは所有枚数ではシンガポールに次いで2位、決済額でもイタリアに次いで2位と高い。

電子マネーの状況は、その国にどのようなサービスがあるかという事情に左右されるようだ。シンガポールは、平均で6枚以上も電子マネーを所有する。日本の場合、SuicaやPASMOなどの交通系電子マネーが普及しているうえに、WAON、nanacoなど流通系の電子マネーも誕生からすでに10年が経ち、ポイント施策を絡めて利用者を増やしてきた経緯がある。

 

既存の決済インフラの壁はいかにも高い


 

日本人が現金決済を好むのには、日銀のレポート(前掲)が指摘するように、支払った瞬間に取引が完了することや、金額以外の情報を切り離せる匿名性、紙幣そのものへの信頼感(偽造がなく、物価もデフレ傾向で安定)などが挙げられる。

ATMも普及しており、現金を調達する手間はさほど問題にならない。また、決済ツールとは切り離されたポイントプログラムも定着しており、日本人は一般的に「ポイントを貯めるだけのカード」を複数枚つかい分けることを苦にしない。

かたやクレジットカードや電子マネーも時間をかけて構築してきた基盤があり、それぞれポイントプログラムを絡めて利用者をしっかり囲い込んでいる。

しかも、クレジットも電子マネーも、決済方法はカードに限定されない。モバイル決済への対応はクレジットと電子マネーを中心に進んでおり、現時点で日本のモバイル決済の主流は非接触式のIC型となっている。QRコードの活用が主体の中国とは異質な点だ。

脆弱な金融基盤から一気にモバイル決済へとジャンプした中国とは異なり、既存のインフラに相当程度の利便性があるなか、いかに「より便利」とはいえ、あるものに不自由を感じていない人たちに決済ツールのチェンジを促すのは簡単なことではない。

フィンテック企業の多くが目指すところは、現金よりカード、それよりモバイル決済という進化の道すじだが、カードを平均7.7枚も所有する日本人に、モバイル決済の必要性を認めてもらうのは大変そうだ。

モバイル決済は利用経験そのものが低く、日銀の調査(前掲)では16年末時点で6%程度という。


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